耳よりだより

認知症の方への基本的な接し方|ケース別の対応と家族の心構え

大切な家族に認知症の兆候が出てくると、多くの人は不安や戸惑いを感じるのではないでしょうか。認知症は今のところ治らない病気といわれていますが、早期発見と適切な対応によって、進行を緩やかにするとされています。

この記事では、認知症の方への基本的な接し方や、日常生活でよくある場面での対応例、そして介護するご家族の心構えについて紹介します。

正しい知識と対応を身に付けることで、認知症の方とそのご家族がより穏やかで充実した日々を過ごせるようになるでしょう。

認知症の方への基本的な接し方|5つのポイント

認知症の方と接するときは、以下の5つのポイントを守りましょう。

認知症の方は、話を理解するのに時間がかかることがあります。認知機能が衰えていることに加え、加齢によって耳が聞こえにくくなっているからです。

そのため、認知症の方と話すときは、ゆっくりと、少し大きめの声で話すことが大切です。周囲が騒がしい場合や、大きな声が出しにくい環境では、耳元ではっきりと話しましょう。

ただし、なかには大きな声を怖がる高齢者もいます。大きな声を出すときは、できるだけ優しい口調で話すよう心がけましょう。

認知症の方と話すときは、短く簡単な言葉を使いましょう。複雑な言い回しや難しい言葉は、すぐに理解することが難しく、不安や混乱を招きやすくなるためです。

相手が理解しやすいような表現を使ったり、「はい」「いいえ」で答えられるような質問にしたりすると、認知症の方もリラックスして会話できるようになります。

認知症の方の話は、たとえ間違っていたとしても、すぐに否定しないようにしましょう。本人は「自分が正しい」と強く信じているからです。

認知症の方は否定や訂正をされると、「嘘をつかれている」「嫌がらせをされている」と感じ、頑なになったり、怒ったりしてしまうことがあります。

このような場合は、たとえ誤った内容だとしても、「そうなのですね」と一度相手の気持ちを受け止めることが大切です。「うん、うん」と相槌を返しつつ、なぜそのような間違いをしているのか考えるようにしましょう。

認知症の方は、動作や反応に時間がかかることが多いもの。「早くして」「何がしたいの?」などと急かさないように注意しましょう。焦りはストレスやパニックを引き起こす原因になることもあります。

本人のペースを尊重すると、相手は「自分は大切にされている」と感じるため、心を開いてもらいやすくなります。また、本人が自分のペースで考えたり話したりすることは、認知機能の維持にもつながります。

認知症の方との接し方で重要なのは、忍耐強く、穏やかに接することです。
イライラしたり、威圧的な態度を取ったりするのは絶対にやめましょう。認知症の方は、感情に敏感になっていることがあります。

あなたが穏やかな対応を心がけると、相手は安心して落ち着いた状態でコミュニケーションをとることができます。

こんなときどうすればいい?ケース別の接し方

認知症の症状が出ると、家族としては戸惑うことや困ることが多くなりますよね。
ここでは、よくあるシチュエーションでの具体的な接し方をいくつかご紹介します。

食事を済ませたのに、「食べていない」と主張されたら、つい「もう食べたでしょう!」と返したくなりますよね。しかし、これはダメな対応です。認知症の方は、否定されると怒ったり、プライドが傷つき、心を閉ざしたりしてしまいます。

このような場合は、否定せずに、「お腹が空いているのかもしれない」と気持ちに寄り添いましょう。食事の記憶を思い出させるために、さりげなく手助けしてもいいですね。

もし、本当にお腹が空いていそうな場合は、軽食や飲み物を提供すると、満足感が得られるでしょう。

<セリフ例>

「お腹が空いているんですね。今日の夜ご飯は何が食べたい?」
「さっき食べた〇〇(食べた料理名)、おいしかったね」

認知症の方は、「今は何時何分?」「ここはどこ?」など、日付や時間などを何度も確認されることがあります。このようなときは、根気強く丁寧に答えましょう。優しい口調で現在の状況を説明すると、心が落ち着くはずです。

自宅の場合は、カレンダーや時計を見やすい場所に置くなどして、質問を未然に防ぐ工夫も役立ちます。

<セリフ例>

「今は〇月〇日の午後1時です。良いお天気ですね」
「ここは〇〇さんのお家です。いつもの皆さんと一緒ですよ」

財布や持ち物を見つけられず、「盗まれた!」「隠された!」とパニックになることがあります。このようなときは、同じ場所を一緒に探すようにしましょう。

「新聞をどけてみましょう」「引き出しの一段目から見てみましょう」と、一緒に探していくと、安心感が得られやすく、猜疑心が収まることがあります。

<セリフ例>

「大切な〇〇(持ち物)がないんですね。一緒に探しましょう」
「ここにありましたよ!良かったですね」

認知症の症状として、同じ話を繰り返すことがあります。聞く側としてはつらいかもしれませんが、うんざりした態度や「その話は何度も聞いたよ」と拒否すると、トラブルのもとになります。

このようなときは穏やかに相槌を打ちながら話を受け止め、適切なタイミングで話を切り上げるのが良いでしょう。ネガティブな話題の場合は、「大変だったね」などと同情の言葉をかけつつ、柔らかに会話を終える工夫をしましょう。

<セリフ例>

「そうなんだね。じゃあ、洗濯物を取り込むから、畳むのを手伝ってくれる?」
「ごめんね、もう〇〇(家族)が帰ってくるから、ご飯の用意をしないといけないの」

頻繁な電話は、不安や心配事が原因であることが多いもの。できる限り付き合ってあげるのが理想ですが、家族にも生活があるため難しいこともあります。

「電話は困る」と拒否すると、パニックになる恐れがあるので、不安の根本原因を解消するように努めましょう。「顔が見えないから不安」なら、定期的にビデオ通話の日を決めるといいですね。

<セリフ例>

「いつも電話をくれてありがとう。次は私から電話するから、少し休んでね」
「新聞とかの料金の支払いは心配しないで大丈夫だよ。きちんと手続きしたからね」

認知症の方が勝手に外出してしまうと、家族はとても心配で不安になりますよね。
玄関の施錠を徹底するのはもちろんのこと、徘徊した場合に備えて、服のポケットやポーチにGPS機能や連絡先を書いたメモを入れておきましょう。

いざというときに、早く発見できるような工夫が大切です。

<セリフ例>

「出かけるときは、必ずこのバッグを持っていこうね」
「どこに行こうとしているの?一緒に準備するよ」

認知症の方を介護する家族が知っておくべき3つのこと

最後に、認知症の方を介護するご家族に知っておいて欲しい3つのことを紹介します。

「物忘れがひどくなった」「ぼんやりしていることが多くなった」など、認知症かもしれないと感じる症状が出たら、早めに医療機関を受診することをおすすめします。早期発見・早期対応が、症状の進行を遅らせる可能性があります。

認知症の介護は家族だけで抱え込まず、外部サービスを積極的に活用しましょう。家族だけで対応することには限界もあります。

外部サービスを取り入れることで、認知症の方も家族もお互いに安心して過ごせる環境が作りやすくなります。家族がすべてを抱え込むのではなく、外部の力をうまく活用することが、介護生活をより良いものにする大切なポイントです。

認知症の介護は、精神的にも肉体的にも大きな負担がかかります。介護する家族が疲れ切ってしまうと、適切なケアができなくなり、認知症の症状が悪化するかもしれません。

介護する家族の健康や生活に影響が出始めたら、早めに施設への入所を検討しましょう。
認知症が進行する前に早めに入所した人の方が、状態が安定しやすいという声も聞きます。

反対に、認知症が進んだ後では、対応が難しくなることもあるようです。施設に入ることで、本人だけでなく、家族も精神的・身体的な負担から解放され、安心した生活を取り戻すことができるでしょう。

まとめ

認知症ケアは長期的な取り組みが必要です。焦らず、ゆっくりと対応していくことが、認知症の方にとっても、介護する家族にとっても大切です。困ったときは、専門家や地域の支援サービスに相談することをためらわないでください。一人で抱え込まず、周囲の力を借りながら、認知症の方との生活を前向きに捉えていくことが大切です。