耳よりだより

高齢者に必要な水分摂取量とは?補給のコツや脱水のリスクを解説

「トイレが不安だからあまり水分を摂りたくない…」
「のどが渇いていないから、水は飲みたくない」

このように、さまざまな理由から、高齢者が水分摂取を嫌がるというのは、よく聞く話ですよね。
ご家族としては脱水が心配なので、「もっと飲んでほしい」と思う反面、「どれくらい飲めばいいのだろう」と気になるのではないでしょうか。

そこで、この記事では高齢者が1日に必要な水分摂取量から、水分補給のコツ、注意点まで詳しく解説します。

高齢者に必要な1日の水分量とは?

一般的に、成人に必要な1日の水分量は2,500mlとされています。
ただし、年齢や体重、生活スタイルなどによって異なるので、個別の状況に合わせて調整することが可能です。

1日の必要水分量は、以下の簡易計算式を用いて算出することができます。

年齢 計算式 体重60kgの人が1日に必要な水分量
22~55歳 35ml×(体重)kg 2,100ml
55~65歳 30ml×(体重)kg 1,800ml
65歳以上 25ml×(体重)kg 1,500ml

この必要水分量は、「食事+間食+飲み物」で摂取すればよいものです。

では、飲み物はどれくらい摂取すればいいのでしょうか。
水分補給(飲み物)の必要量を把握するには、食事に含まれる水分量を求めて計算します。

食事摂取量(kcal)×0.4=食事に含まれる水分量

よって、1,500kcalの食事の場合、食事に600mlの水分量が含まれているということになります。

以下の表は、65歳以上で1日の食事摂取量が1,500kcalの場合の1日に必要な水分補給量を、体重別にまとめたものです。

【1日の食事摂取量:1,500kcalの場合】※65歳以上の人

体重 1日に必要な水分量 1日に必要な水分補給量
40kg 1,000ml 400ml
50㎏ 1,250ml 650ml
60㎏ 1,500ml 900ml
70㎏ 1,750ml 1,150ml
80㎏ 2,000ml 1,400ml

上記をご覧いただくと、本人の体重にもよりますが、500mlのペットボトル1〜3本の水分補給で十分ということが分かります。

注意!必要な水分量には個人差がある

必要な水分量は、年齢や体重、食事摂取量のほか、健康状態や生活環境などによって異なります。
本記事でご紹介した水分量はあくまで目安とし、適正量についてはかかりつけ医や主治医に相談するといいでしょう。

水分摂取量が少ないとどうなる?知っておくべきリスク

人間は加齢とともに、体内の水分量が減少します。
そのため、高齢者は水分摂取量が少ないと、さまざまな健康上のリスク要因となるので、注意が必要です。

▼水分摂取量が少ないことで生じるリスク

  • 脱水症
  • 熱中症
  • 脳梗塞
  • 心筋梗塞
  • 尿路感染症
  • 腎機能の低下
  • 便秘

特に、脱水症や熱中症は、安静にしてもなりやすく、また、本人や周囲が気づかないうちに、危険な状態に陥ることがあります。

高齢者の場合は水分摂取量が少ないと、命にかかわることがあります。
水分補給を本人に任せきりにせず、周囲の声かけや配慮も重要です。

高齢者におすすめ!水分をうまく摂取するコツ5つ

水分摂取を嫌がる高齢者に、水分を摂らせるのは大変です。
いくら健康が大事だとはいえ、水分摂取を無理に進めるとお互いにストレスになるので注意しましょう。

ここでは、高齢者が快く、自然に水分摂取ができるコツを5つご紹介します。

1.本人の飲みたいものを選ぶ

水分補給に最適な飲み物は、水や麦茶、経口補水液などですが、種類にあまりこだわらず、本人の好みに合わせることも大切です。

身体が欲しがる飲み物は、体調やその日の気分によって変わるものです。
いくつかの飲み物を用意して、本人に選んでもらうと、拒否感なく飲めることがあります。

本人が「これなら飲みたい」「これなら飲める」というものを見つけられるといいですね。

ただし、糖尿病の持病がある人は、糖分を多く含むジュースや清涼飲料水の過度な摂取は避けてください。持病がある人は、飲み物の種類や量についてかかりつけ医に相談するといいでしょう。

2.一度の飲む量を減らし、飲む回数を増やす

大量に水を飲んでも、一度に吸収できる水分量は200ml程度です。吸収できなかった水分は、ほとんどが尿として排出されます。

そのため、一度にたくさん飲むのではなく、飲む回数を増やすといいでしょう。
高齢者の中には、一度に飲める量が少なかったり、コップの水を飲み切るのにプレッシャーを感じたりする人もいます。

1回に1口ずつ、乾いた口を湿らす程度でも、水分補給になります。
無理のない程度の量を、こまめに摂取するといいでしょう。

3.果物を積極的に摂る

食事量が少なかったり、飲み物を飲みたがらなかったりする人は、果物を積極的に摂るのがおすすめです。果物には水分が多く含まれており、水分補給に適しています。

▼水分量の多い果物

  • イチゴ
  • スイカ
  • パイナップル
  • バナナ
  • リンゴ
  • 梨 ……ほか

果物にはビタミンや食物繊維、ミネラルなどが豊富です。
果物を積極的に食べると、水分補給できるだけでなく、不足しがちな栄養素を補うメリットもあります。さらに、果物は生活習慣病やフレイル予防の効果も期待できます。

4.ゼリーやプリンなどの間食で水分補給する

飲み込むことに不安がある人は、液体よりもゼリーを選ぶといいでしょう。
ゼリーは液体よりも飲みやすく、嚥下困難な人に負担をかけにくいからです。

間食にゼリーやプリンなどを取り入れると、食欲が落ちていても、おいしく食べられることがあります。

ただし、水分補給のほとんどをゼリー状にする場合は、できるだけ無糖のものを選びましょう。砂糖を過剰摂取すると、健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。

5.いつでも水分補給できる環境を作る

高齢者はのどの渇きを感じにくいため、いつでも水分補給できる環境を作ることが大切です。

こまめに水分が取れるように、手が届く場所にペットボトルやストロー付きのコップ(水筒)などを用意しておくといいでしょう。

自主的な水分補給が難しい場合は、周囲の声かけや促しが必要です。
水分補給が必要になるタイミング(入浴前後や寝起き、外出前後)で声かけを行い、こまめに水分を摂る習慣をつけましょう。

高齢者の水分補給で注意する4つのポイント

最後に、高齢者の水分補給で注意すべき点を4つお伝えします。

1.利尿作用が高い飲み物はできるだけ避ける

高齢者の水分補給では、利尿作用が高い飲み物はできるだけ避けましょう。
せっかく水分補給しても、体内に貯まらずに、尿として排出されてしまうからです。

利尿作用が高い飲み物はトイレの回数を増やすため、高齢者には向きません。
特に就寝前に摂取すると、夜間トイレで目覚めることがあるので、気をつけましょう。

▼高齢者が避けるべき「利尿作用が高い飲み物」

  • コーヒー
  • 紅茶
  • 緑茶
  • ウーロン茶
  • フルーツジュース
  • ココア
  • コーラ
  • ビール
  • 赤ワイン ……など

2.不安な気持ちに寄り添う

高齢者が水分摂取を嫌がる場合、「なぜ水分摂取をしたくないのか」を理解することが大事です。

水分摂取を拒む人の中には、「トイレが心配だから」と不安を抱えていることがあります。
このような場合、不安が解消されない限りは、積極的な水分補給は難しいでしょう。

「水分を摂ってもらわなければ」と焦るよりも、本人の不安な気持ちに寄り添い、気が楽になるような声かけやサポートをすべきです。

水分摂取を拒む理由 対処法
体調が不安
  • 飲み物の種類や温度、量を調整する
  • 主治医やかかりつけ医に相談する
トイレが不安
  • トイレの場所を伝える
  • トイレに行けるタイミングをあらかじめ伝える
  • リハビリパンツを使用する
  • ポータブルトイレを用意する
水分を摂取する気持ちにならない
  • おしゃべりしながら一緒に水分摂取する
  • 食事に水分量が多い野菜や汁物を取り入れる

3.定期的に声かけをする

高齢者の中には、自分でのどの渇きに気づきにくいこともあります。
そのため、可能な限り、家族や周囲の人が定期的に声をかけて、水分補給を促すといいでしょう。

特に、認知機能に不安がある場合は、本人任せにするのは心配です。
定期的な声かけが難しい場合は、「〇時にコップ半分を飲む」など、「いつ・どれくらいの量を飲むか」を分かりやすく伝えておきましょう。

4.こまめな水分補給を習慣に

高齢になると、誰でも脱水状態になるリスクがあります。
特に高齢者の場合は、脱水状態に気づきにくく、脱水が進行すると命にかかわります。
季節に関係なく、こまめに水分補給を行うことが大切です。
安心して暮らすためには、水分補給の習慣をつけるような仕組みを作るといいでしょう。