高齢者の健康維持に重要な「口腔ケア」とは?目的やケア方法を解説
いくつになってもイキイキと元気でいるためには、心身をしっかりケアする必要があります。
特に口腔内には、疾患につながるトラブルのモトがたくさん潜んでいて、歳を重ねるにつれその危険性は高まっていきます。深刻な状況に至らないためには、しっかりと口腔内をケアすることが大切です。
今回はお口の中を清潔に保つだけでなく、身体全体の健康を維持するためにも重要な「口腔ケア」について、分かりやすく解説していきます。
口腔ケアとは|2つの種類
口腔ケアとは、口の中を清潔に保ち、口腔機能を高めるケアの総称です。
具体的には、次の2種類を指します。
器質的口腔ケア | うがいや歯みがき、入れ歯の洗浄などで口腔内を清潔に保つ |
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機能的口腔ケア | マッサージやリハビリなどで口腔機能の維持や回復を目指す |
器質的口腔ケア
器質的口腔ケアは、口の中を清潔に保つために欠かせないケアです。
主に食後や就寝前に行う、うがいや歯磨き、舌の清掃などが該当します。
口の中の汚れは、歯茎や舌、頬の内側にも付いており、放置すると虫歯や歯周病、誤嚥性肺炎などの原因になります。
機能的口腔ケア
機能的口腔ケアは、口周りや舌の筋肉を鍛えるケアです。
口周りや舌の体操のほか、唾液の分泌を促すためのマッサージなどが該当します。
加齢とともに陥りやすいオーラルフレイル(口の虚弱)への対策にもなります。
- 食べ物が飲み込みにくい
- 噛めない食品が増え、食べられるものの種類が減る
- 食べこぼし
- 飲み込む際にわずかにむせる
- しゃべりにくい
このような症状を放置すると、全身に影響を及ぼし、要介護状態につながりやすくなるので注意が必要です。
口腔ケアを行う目的
高齢者にとって口腔ケアは、その後の健康や生活の質に影響する重要なケアです。
ここでは、高齢者が口腔ケアを行う4つの目的をご紹介します。
虫歯や歯周病などを防ぐ
口腔ケアを行い、口の中を清潔に保つことで、虫歯や歯周病を防ぐことができます。
歯周病になると、痛みや不快感のほか、入れ歯がうまく固定されないなどの症状が出やすくなります。
また、口腔ケアで虫歯や歯周病を予防すると、歯の喪失も防げます。
歯を失うと、咀嚼や嚥下に影響が出て、食べられるものの種類が限られてしまいます。
自分の歯でしっかり噛めると、さまざまな食事を楽しむことができます。
誤嚥性肺炎の感染を予防する
誤嚥性肺炎は、口の中に残った食べかすや細菌が肺に入ることで起こる病気です。
高齢者の誤嚥性肺炎は気づきにくく、重症化しやすい傾向にあります。重症化すると、寝たきり状態、最悪の場合は死に至ります。
高齢者にとって恐ろしい病気ですが、口腔ケアをしっかり行うことで予防できます。
- 口腔内を清潔にすることで、細菌の繁殖をおさえる
- 嚥下機能を鍛えることで、誤嚥しにくくする
口腔内の細菌を減らすとともに、飲み込む力を維持できれば、誤嚥性肺炎のリスクは減少します。
QOLを維持・向上させる
口腔ケアを行うと、「噛む」「飲み込む」「話す」などの機能を維持・向上できます。
これらは、QOL(クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)を左右する重要な要素です。
口腔が不衛生だと、味を感じにくかったり、口臭がひどくなったりします。そのような状態だと、食事やおしゃべりを楽しむことは難しいでしょう。
いつまでも自分らしく健康でいるためには、口腔ケアでQOLを維持することは欠かせません。
唾液の分泌を促す
加齢とともに、唾液の分泌は減少し、特に口の中が汚れていると唾液は出にくくなります。
唾液の分泌を促すには、口腔ケアで汚れを取り除き、口の中を清潔にすることが大切です。
口腔ケアで適度に刺激を与えると、唾液は少しずつ出てくるようになります。
唾液の分泌が減り、口腔内が乾燥すると、細菌が繁殖しやすくなり危険です。
口腔内の細菌は、誤嚥性肺炎のほか、虚血性心疾患や脳梗塞などの病気の原因になることもあります。
高齢者の口腔ケアを行うときのポイント
ここでは、高齢者の口腔ケアをスムーズに行うために抑えておきたいポイントをご紹介します。
できるだけ本人に任せる
口腔ケアは、できるだけ本人にやってもらうようにしましょう。自分で歯を磨いたり、うがいをしたりすることは、身体の機能維持に効果的です。
このとき、本人が使いやすい歯ブラシや歯間ブラシを選ぶと、磨き残しが少なくなります。
家族は、本人ができない部分のケアや、最終チェックを行いましょう。
口腔ケアを行う際は同意を得る
本人以外の人が口腔ケアを行う場合は、必ず同意を得てから行いましょう。
口腔ケアは、健康の維持・促進において非常に重要なことです。しかし高齢者のなかには、たとえ家族であったとしても、口の中を見られたり歯を磨かれたりすることに抵抗がある人は少なくありません。
そのため、「これから口の中をケアします」「歯磨きをします」などと説明し、事前に本人の同意を得ることで、スムーズに口腔ケアを行えます。
短時間で行う
本人以外の人が口腔ケアを行う場合は、できるだけ短時間で済ませましょう。高齢者の口腔内は乾燥しやすいため、長時間のケアは負担になります。
不快感を長く持たせないためにも、口腔ケアは手際よく行いましょう。
器質的口腔ケアのやり方
器質的口腔ケアのやり方は、通常の歯磨きの手順と大きな違いはありません。
基本的な手順は以下のとおりです。
うがいの方法
うがいは、左右の頬をふくらませて、しっかり動かしながらブクブクします。片方ずつ順番にブクブクし、最後に全体を膨らませてブクブクします。
要介護状態の人や拒否感の強い人に無理にうがいを行うと、誤嚥の恐れがあります。無理はせず、場合によっては口腔清拭で対応するといいでしょう。
ベッド上のうがいは、ガーグルベースン(うがい受け)が便利
うがいの時に吐き出した水を受ける容器。三日月型で口元にフィットしやすい形が特徴です。
洗面器や食品保存容器などで代用可能ですが、100円ショップなどで専用の物を購入すると使いやすいでしょう。
入れ歯の清掃方法
入れ歯は、必ず義歯専用の歯ブラシや洗浄剤・歯磨き粉を使いましょう。
入れ歯は歯よりも柔らかいため、一般的な歯磨きアイテムを使うと、入れ歯に細かい傷をつけてしまうからです。
また、義歯用洗浄剤は汚れを浮かせる効果はありますが、歯の間に詰まった汚れは落としきれません。そのため、週に1〜2回程度は義歯ブラシで磨くといいでしょう。
入れ歯は衝撃に弱く割れやすいので、洗面器などに水を張って、水を流しながら磨きます。
熱湯を使うと、入れ歯が変形する恐れがあります。必ず水で洗いましょう。
歯磨きの方法
歯磨きは、「軽く・優しく・小刻みに行う」のがポイントです。
歯ブラシの毛先の部分を、歯に対してまっすぐ(90度)になるように当て、軽い力で小刻みに動かします。毛先が歯から離れないよう細かく動かしながら、力を入れずに1本ずつていねいに磨きましょう。
歯と歯の間や、奥歯の溝は毛先が届きにくく、磨き残ししやすい場所です。必要に応じて、歯間ブラシやフロスなどを使いましょう。
介助が必要な場合は、両手を使って磨きます。歯ブラシを持っていない方の手であごを固定したり、唇や頬を広げたりしながら磨いていきます。唇や頬を強く引っ張りすぎないように注意しましょう。
歯磨きアイテム選び方のポイント3つ
- 高齢者は歯茎が弱いので、柔らかめの歯ブラシを選ぶ
- 手首を動かしにくい人は、電動歯ブラシがおすすめ
- 歯間ブラシはブラシ部分のサイズに注意。本人に適したものを選ぶ
舌の清掃方法
舌の表面に付着する白いものは、舌苔(ぜったい)と呼ばれる汚れです。
舌苔がついている場合は、舌ブラシや柔らかい歯ブラシなどで、奥から前に優しくこすりとります。
舌はとても柔らかくデリケートなので、硬い歯ブラシでこするのはやめましょう。
舌磨きのアイテムは、柔らかい毛のブラシタイプと、ゴムやシリコン製のへらタイプがあるので、使いやすい方を選びましょう。
要介護状態の人は「口腔清拭」を
要介護状態で歯磨きが難しい人の場合は、口腔清拭(せいしき)を行いましょう。
口腔清拭は、専用のスポンジや球体ブラシ、口腔用ウェットティッシュなどを使って、口の中の汚れを拭き取ることです。
清拭は、奥から手前に拭き取ります。指を奥に入れすぎると、嘔吐しそうな不快感を与えてしまいます。力加減に注意しながら、丁寧に拭いていきましょう。
機能的口腔ケアのやり方
噛む、飲み込む、会話する、表情を作る…など、口腔機能には「食べる」「話す」という社会生活を健康に営む上での基本的役割があります。これらの口腔機能を維持するには、機能的口腔ケアが有効です。
ここでは、ご家庭でできる機能的口腔ケアを3つご紹介します。
唾液をしっかり出すための「唾液腺マッサージ」
耳下腺、顎下腺、舌下腺をしっかり動かすマッサージです。
唾液がよく出るようになると、舌が滑らかに動いて、食べ物を飲み込みやすくなります。
- 親指以外の指4本を頬に当て、奥歯のあたりを後ろから前へ向かってぐるぐる回す(10回)
- 親指で耳の下から顎の先まで5ヵ所ぐらいを親指で突き上げるように順番に押す(各5回)
- 両手の親指であごの真下から突き上げるようにぐっと押す(10回)
口や舌の動きをスムーズにする「パタカラ体操」
パタカラ体操は、口や舌の筋肉を鍛える体操のひとつです。
「パ」「タ」「カ」「ラ」と発音することで、食べるために必要な筋肉を鍛えられます。
「パ」「タ」「カ」「ラ」の各発音を8回2セット行う
<各発音のポイント>
「パ」:唇をはじくように
「タ」:舌先を上の前歯の裏に付けるように
「カ」:舌の奥を上あごの奥につけるように
「ラ」:舌を丸めるように
舌を動かし鍛える「舌体操」
舌の筋肉を鍛えると、むせや誤嚥などの症状改善につながります。
- 口を大きく開け舌をゆっくり前に出す
- 出した舌を出したり引っ込めたりする
- 舌を上あごにつけたり、横に動かしたりする
※01〜03を繰り返し、しっかり舌を動かしましょう
口腔ケアの重要性を理解してもらうことが大切
高齢者の健康維持に欠かせない口腔ケアですが、本人にやる気がなければスムーズに行えません。口腔ケアへの拒否感をなくし、モチベーションを高めるには、あらかじめ「なぜ口腔ケアが必要なのか」を伝えるといいでしょう。
口腔ケアは生活の質を高め、全身の健康維持に役立ちます。口腔ケアを習慣にして、いつまでも自分らしく元気に生活していきたいですね。