高齢者の睡眠時間はなぜ短い?理想的な睡眠時間と不眠を改善する方法
「寝付きが悪くて、睡眠時間が短いけれど、問題ないだろうか」
「夜中に何度も起きるせいで、いつも睡眠不足になっている」
高齢者の中には、このような“眠りに関する悩み”を抱える人も少なくありません。
きちんと睡眠がとれないと、日常生活に支障が出るだけでなく、重篤な病気を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。
この記事では、高齢者の睡眠時間が短くなる理由から不眠を解消する方法まで解説します。睡眠は健康のバロメーター。いつまでも元気でいるために、快眠を目指しましょう。
高齢者の睡眠が短い理由
ここでは、考えられる5つの理由をご紹介します。
①眠りが浅くなる
眠りの質は年齢とともに変化し、高齢になるにつれて、眠りが浅くなります。
上記の図をご覧いただくと、高齢者は若年者より深い眠りが少なく、小刻みに中途覚醒していることが分かるでしょう。
眠りが浅いと、尿意やちょっとした物音でも目覚めやすくなります。そのため、高齢者は「睡眠時間が短い」「熟睡していない気がする」と感じやすくなります。
②日中の活動量が少ない
人間は心身の疲労回復のために睡眠をとります。
高齢になり、日中の活動量が少なくなると、疲れがたまらないので、短い睡眠で回復できるようになります。現役時代と同じように眠れないのは、このためです。
社会的な交流が減って外出しなくなると、メラトニン(睡眠を促すホルモン)の分泌量が低下します。メラトニンの分泌量は加齢とともに減るため、意識的に太陽の光を浴びないと不眠につながります。
③寝床に入る時間が長く、生活にメリハリがない
寝床に入る時間が長く、生活にメリハリがないと、睡眠の質の低下を招きます。
眠くないのに寝床に入っても、当然眠れません。寝床でゴロゴロしている時間が長いと、基礎代謝も減らないので、寝付きが悪くなります。
高齢者の中には、退職などにより自由な時間が増えることから、「やることがないから寝る」という方もいらっしゃるでしょう。実際に、厚生労働省のe-ヘルスネットでは、高齢者ほど、寝床に入っている時間が長いと指摘されています。
「寝床に入った時間=睡眠時間」と脳が錯覚すると、一定時間寝ても「寝足りない」などの不満を感じやすくなります。
④ストレス
ストレスがたまると、自律神経やホルモンが乱れるため、睡眠時間が短くなりやすいです。
特に高齢者の場合は、「自分だけ眠れないのでは?」「このまま眠れないと、病気になってしまうのでは?」と過度に心配しがちです。
若い頃のような睡眠が得られないことに焦りや不安を感じると、余計に眠れなくなってしまうケースもあります。
⑤病気や薬の副作用
睡眠が短くなる要因として、病気や薬の副作用も挙げられます。
高齢者の場合は、持病による症状(疼痛、頻尿、搔痒)が不眠の原因となることがあります。
【不眠原因となる症状が出やすい持病一例】
- 心疾患
- 慢性肺疾患
- 糖尿病
- 泌尿器科的疾患
- 皮膚疾患
- 整形外科的疾患......など
このほか、うつ病や不安障害、認知症などの精神疾患などによっても、睡眠時間が短くなることがあります。また、服用している薬に、眠りを妨げる成分が含まれていると、「眠りにくい」「睡眠時間が短い」となる場合があります。
高齢者の理想的な睡眠時間
必要な睡眠時間は体質によって異なるため、絶対的な基準はありません。
一般的に、睡眠時間は人それぞれで、日中に眠くなって困ることがなければ、時間にこだわらなくてよいとされています。
とはいえ、どれくらいの睡眠時間が理想なのか、目安を知りたいという方もいらっしゃるでしょう。ここでは、高齢者の理想的な睡眠時間のほか、不眠や長く寝すぎるリスクについて解説します。
高齢者の理想的な睡眠時間は5~7時間
日本睡眠学会の理事長で久留米大学の内村直尚学長は、高齢者の理想的な睡眠時間を5〜7時間としています。これは、「久山町研究」の認知症の発症リスク調査で、睡眠時間5〜7時間のケースが最も認知症になりにくかったという結果に基づいています。
【年齢別】理想的な睡眠時間の目安 | |
---|---|
~15歳 | 約8時間 |
25歳~ | 7時間 |
45歳~ | 6.5時間 |
65歳~ | 6時間 |
75歳~ | 5.5時間 |
85歳~ | 5時間 |
また、睡眠総合ケアクリニック代々木の井上雄一理事長も、「70歳代になると、睡眠時間が6時間以下になるのは自然なこと」としていることから、高齢者が無理に8時間以上眠る必要はないと考えられます。
5時間以下・8時間以上の睡眠は“認知症リスク”が上昇する
九州大学の小原知之氏らが、福岡県久山町在住の65歳以上の住民を対象に行った「久山町研究」によって、短時間睡眠や長時間睡眠の人は認知症の発症リスクが高いことが分かりました。
睡眠時間が5〜6.9時間の人たちと比較した認知症発症リスクは、以下のようになっています。
睡眠時間 | 認知症発症リスク |
---|---|
5時間未満 | 2.6倍 |
8~9.9時間 | 1.6倍 |
10時間以上 | 2.2倍 |
一方で、短時間睡眠であっても、日常活動強度を高めることで認知症のリスクを低減する可能性が示唆されています。高齢者がいつまでも健康でいるためには、適切な睡眠時間を維持することが重要であるといえるでしょう。
睡眠不足かどうかを判断する方法
睡眠不足かどうかを判断するには、睡眠時間ではなく、起きている間の状態をチェックしましょう。
▼睡眠不足チェックリスト
- 起床したときに疲労感がある
- 起床から4時間以内に眠気が起きる
- 日中、眠くて仕方がない
- 1時間以上昼寝をする
上記に1つでも該当し、日中の生活に支障が出るようであれば、睡眠不足の可能性があります。後述する対策を実践しても改善しない場合は、早めに主治医に相談しましょう。
不眠を改善し、質の良い睡眠を得る7つの方法
最後に、不眠を改善し、質の良い睡眠を得るための方法を7つご紹介します。
①20分寝付けなかったら、寝床を出る
精神科医で早稲田大学教授の西多昌規先生は、「20分寝付けなかったら、寝床を出る」ことを推奨しています。質の高い睡眠を得るためには、ストレスをためずに、自然と眠くなるのを待つことが重要です。
眠れない状態で寝床に居続けると、以下のようなデメリットがあります。
- うとうとする時間が増え、眠りが浅くなりやすい
- ダラダラと過ごしてしまうことで、睡眠の満足度が下がる
- 「眠りたいのに眠れない」「眠れなかったらどうしよう」などネガティブな感情になりやすい
無理して眠ろうとせず、眠くなるまでゆっくりと過ごしましょう。
②3食規則正しく食べる
規則正しい食事は、体内時計のリズムを整える重要な要素です。
特に朝食は、朝の目覚めを促す働きがあります。簡単なものでよいので、きちんと食べるようにしましょう。
また、就寝前の夕食や夜食は、睡眠を妨げるので、控えた方がよいでしょう。
夕食に消化の悪いものや、胃もたれしやすいものを食べると、スムーズに眠れないことがあります。
③日中の活動量を増やす
日中の活動量が増えるほど、脳や体が疲れるので、よく眠れるようになります。
寝床でダラダラしたり、テレビを見続けたりするのではなく、日頃からこまめに動くようにしましょう。
散歩や部屋の掃除などを習慣にして、毎日続けると、睡眠の質が良くなります。
ただし、寝る直前はストレッチなどの軽めの運動が理想的です。就寝前に激しい運動をすると、交感神経の働きが盛んになり、寝付きが悪くなります。
④昼寝は午後3時まで・30分以内にする
長すぎる昼寝や夕方以降の仮眠は、快眠の妨げになります。
昼寝をする場合は、午後3時まで、1日30分以内にしましょう。30分以上寝ると、眠りが深くなりやすく、夜の睡眠に影響するからです。
昼寝をする際は、昼寝前にコーヒーや緑茶などのカフェインを飲むといいでしょう。カフェイン効果で15〜30分程度で、すっきり目覚めることができます。
⑤就寝前のアルコール・カフェイン・喫煙はNG
就寝前のアルコールやカフェイン、喫煙は不眠の原因になります。
種類 | 注意点 |
---|---|
アルコール |
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カフェイン |
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喫煙 |
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快眠のためには、アルコールやカフェイン、喫煙は控えましょう。
⑥就寝2~3時間前に、ぬるめの湯に入る
就寝2〜3時間前に、ぬるめのお湯にゆっくり入ると、リラックス効果と深部体温を引き下げる効果があり、寝付きが良くなります。
反対に、寝る直前に入浴すると、交感神経が活発になり、寝付きが悪くなるので気を付けましょう。
⑦腹式呼吸でリラックスする
意識してお腹で深呼吸することで、全身の筋肉をほぐします。
寝る前にリラックスできるようになると、寝付きが良くなり、睡眠の満足度が高まります。
▼腹式呼吸の仕方
(準備)部屋の照明を消し、楽な姿勢で横たわる
- 鼻から息を吸い込む(肺を空気で膨らませる)
- 鼻から一定の空気を吐き出す(胸やお腹がへこむのを意識)
- 呼吸に集中して数回繰り返す
自分の行きたい場所を思い浮かべたり、水の上にふわふわと浮かぶ心地よさをイメージすれば、さらに効果的です。
高齢者の睡眠は時間よりも質を重視しよう
高齢者は長く眠るよりも、生活リズムを整え、睡眠の質を上げることが重要です。
寝ることを意識しすぎると、かえって眠れなくなるものです。規則正しい生活を心がけ、リラックスして寝床に入るようにしましょう。
ご紹介した方法を実践しても睡眠の問題が改善されない場合は、睡眠障害などの病気が潜んでいる可能性があります。主治医や専門医に相談しましょう。