高齢者がかかりやすい感染症と予防対策|感染した場合の対処法も
高齢者は若い世代に比べて感染症にかかりやすく、重症化しやすい傾向があります。これは、加齢による免疫力の低下が主な原因です。「ちょっとした風邪や体調不良だろう」と油断していると、命にかかわる状態になる可能性があります。
そのため、高齢者は感染症にかからないようにすることが重要です。
この記事では、高齢者がかかりやすい感染症の種類や、日常生活でできる具体的な予防策、そして万が一感染してしまった場合の対処法について詳しく解説します。
高齢者がかかりやすい感染症の種類
まずは、高齢者がかかりやすい主な感染症の種類を確認しておきましょう。
インフルエンザ
インフルエンザは、毎年12月〜翌年3月頃にかけて流行します。
高熱(38〜40℃)、悪寒、頭痛などの症状が特徴です。高齢者は重症化しやすく、肺炎や脳症、中耳炎、心筋炎などの合併症を引き起こす恐れがあります。
新型コロナウイルス
新型コロナウイルスは、近年、世界中で大流行した感染症です。
主な症状は、発熱やのどの痛み、倦怠感、頭痛などですが、個人差があります。「味が分からない」「においを感じない」など、味覚や嗅覚に異常が出る人もいます。特に高齢者の場合は、「せん妄」という一般的ではない症状が現れることがあります。
新型コロナウイルスは、基礎疾患(慢性呼吸器疾患、糖尿病、心血管疾患)がある人は、特に重症化リスクが高いとされており、注意が必要です。
肺炎
肺炎は細菌やウイルスが肺の中で増殖し、炎症を引き起こす感染症です。
肺炎で亡くなる日本人の約98%が65歳以上の高齢者となっており、軽視できません。
高齢者は免疫力が低下しているため、ちょっとした体調不良をきっかけに肺炎を引き起こしやすくなります。高齢者の場合は、肺炎の主な症状である発熱や咳、痰などが見られないまま、急激に症状が進むことがあります。「ちょっとだるい」「風邪っぽい」と放置していると、肺炎に気づかないまま重症化する恐れがあり危険です。
結核
結核も高齢者がかかりやすい感染症の1つです。昔の病気と思われがちですが、現在でも1日43人が感染、6人が命を落としています。高齢者の場合は、以下のケースで結核を発症することが多いようです。
- 過去に結核に感染したが無症状だった人で、免疫力が低下したため発症
- 過去に治療した肺結核の再発
結核の主な症状は、呼吸器症状(咳と痰、血痰、喀血)と全身症状(発熱、寝汗、倦怠感、体重減少)です。咳が2週間以上続く場合は、要注意とされています。
ただし、高齢者の場合は、感染しても呼吸器症状がなく、症状が全身の衰弱や食欲不振という人もいるようです。心配な方は、定期的に健康診断を受けるといいでしょう。
感染性胃腸炎(ノロウイルス)
冬の感染性胃腸炎の主な原因となるのが、ノロウイルスです。主な症状は、吐き気や嘔吐、下痢で、発症すると、高齢者は脱水症状になりやすいとされています。脱水状態になると、命にかかわることがあるため、こまめな水分補給が必要です。
ノロウイルスは、嘔吐物や便にたくさんのウイルスが含まれており、感染力がとても強いのが特徴です。少量のウイルスでも感染するので、適切に対処しなければ家庭内や施設内で一気に感染が広がることがあります。
尿路感染症
尿路感染症は、細菌が尿道や膀胱、腎臓などで増殖して、炎症が起きる感染症です。感染する場所によって、「膀胱炎」と「腎盂腎炎」に分けられます
膀胱炎の主な症状は、次のとおりです。
排尿痛 | 排尿時に尿道や膀胱に痛みがある |
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残尿感 | 排尿後も膀胱に尿が残っている感じがある |
頻尿 | 頻繁にトイレに行きたくなる |
腎盂腎炎の主な症状は、腎臓あたりの痛みや発熱です。
女性は尿道が短いため、男性よりも尿路感染症にかかりやすい傾向があります。水分をしっかり摂り、トイレを我慢しないことが大切です。
日常生活でできる感染症の予防対策
感染症にかからないためには、日頃から予防対策を行うことが大事です。
ここでは、日常生活で習慣にしたい感染症の予防対策をご紹介します。
手洗い・うがい
外出後には必ず手洗い・うがいを行いましょう。感染の元となるウイルスや細菌を体内に取り込まないためです。手洗いは石鹸を使い、流水で30秒以上きちんとすすぎましょう。パッと短時間で手洗いすると、指の間や爪の間、手首が洗い残ししやすいです。手洗いは、しっかり丁寧に行うよう意識するといいでしょう。
外出後だけでなく、食事前やトイレ後も手洗いを徹底すると、家庭内・施設内の感染予防になります。
マスク
ウイルスや細菌の侵入を防ぐには、マスクの着用が有効です。
マスク着用をおすすめするシチュエーション
- 人ごみに行くとき
- 体調が万全でないとき
- 咳やくしゃみが出るとき
- 周囲で感染症が流行しているとき
一度使ったマスクは必ず捨てましょう。まだ使えそうに見えても、マスクの表面にはウイルスや細菌がついている可能性があります。「マスクを触ったら手洗い」を習慣にしましょう。
予防接種(ワクチン)
予防接種を行うと、感染や重症化のリスクを減らすことができます。
高齢者に推奨されている予防接種は、次のとおりです。
インフルエンザワクチン | インフルエンザの感染、重症化を予防します。 国内の研究によると、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者について、34〜55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています。 |
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肺炎球菌ワクチン | 肺炎球菌による肺炎などの感染症を予防し、重症化を防ぎます。 ただし、すべての肺炎の感染や重症化を予防するものではありません。 公費での接種の対象者は、65歳以上の方と、60〜64歳で一定の基礎疾患がある方です。 |
新型コロナワクチン | 新型コロナウイルスの感染、重症化を予防します。 定期接種の対象者は、65歳以上の方と、60〜64歳で一定の基礎疾患がある方です。 |
出典:インフルエンザワクチン(季節性)|厚生労働省,高齢者の肺炎球菌ワクチン|厚生労働省,新型コロナワクチンについて|厚生労働省より作成
予防接種を受けるタイミングや、接種の必要性については、かかりつけ医と相談して決めるといいでしょう。
換気
空気中のウイルス量を減らすには、部屋の窓を開け、新鮮な空気に入れ替えましょう。
窓を2ヶ所開けると、風の流れができます。サーキュレーターや扇風機を使ってもいいでしょう。
1時間に数分程度の換気が理想ですが、実際には難しいこともあります。その場合は、24時間換気システムを活用したり、台所や洗面所の換気扇を常時運転に設定したりするのがおすすめです。
栄養バランスのいい食事
感染症にかからないためには、栄養バランスのよい食事を摂ることも欠かせません。
免疫機能を活性化する働きのある「ビタミンC」や「タンパク質」を含む食品を、意識して摂るようにしましょう。
高齢者は低栄養になりやすい傾向があります。普段から、栄養バランスのよい食事を心がけましょう。
十分な睡眠
免疫力の維持に大切なのが、十分な睡眠です。睡眠不足だと、免疫力が下がり、感染症にかかりやすくなります。規則正しい生活を送り、質の良い睡眠をとるようにしましょう。
免疫力については、以下の記事で詳しく解説しています。併せて参考にしてください。
適度な運動
ウォーキングやストレッチなどの適度な運動は、免疫力アップの効果が期待できます。
しかし、「運動したくない」「苦しい」と感じながらの運動は逆効果です。無理のない範囲で体を動かすといいでしょう。
運動が苦手な方や体力に不安がある方は、以下で紹介する「自宅でできる簡単な体操」に挑戦してみてください。
その1:ふくらはぎの筋力アップ体操
その2:お尻の筋力アップ体操
- 椅子の後ろに立って背もたれを持ち、足をゆっくり横に上げます。
- 2秒間キープしたら、ゆっくり足を下ろします。
- 同様に反対の足も行い、交互に10回繰り返します。
★慣れてきたら少しずつ回数を増やしましょう。
その3:足指の筋力アップ体操
万が一感染してしまった場合の対処法
もしも感染症にかかってしまったら、どうすればいいのでしょうか。
最後に、本人や家族ができる対処法について解説します。
早めに医療機関を受診する
症状が出たら、早めに医療機関を受診しましょう。
高齢者の病気の状態は見た目では判断しにくいもの。「軽症に見えても、実は深刻な状態」ということもあります。
「いつもの反応と違う」「元気がない」「笑わない」などの変化があれば、病院を受診しましょう。
家族もマスクを着用する
家庭内での感染を広げないためには、感染者以外も家の中でマスクを着用することが重要です。
外出時に着用したマスクは必ず捨て、室内では新しいマスクを使いましょう。
タオルの共有をやめる
家庭内の誰かが感染した場合、タオルの共有はやめましょう。感染者が使用したタオルには、ウイルスや細菌がついていることがあります。
感染者が出たら、個別のタオルを用意しましょう。使い捨てのペーパータオルを使うと便利です。
消毒を行う
感染を広げないためには、頻繁に触れるところを消毒し、ウイルスを減らすことも効果的です。次亜塩素酸ナトリウムや消毒液で、以下の部分を拭くといいでしょう。
消毒を行う場所
- ドアノブ
- スイッチ
- リモコン
- 便座
- 手すり
アルコール入りのウエットティッシュを使うのも、おすすめです。
まとめ
高齢者の感染予防は、本人だけでなく、家族の協力も不可欠です。日頃の生活習慣を見直し、予防対策を心がけることで、感染のリスクを大幅に減らすことができます。
この記事で紹介した内容を参考に、家族の健康を守りましょう。
参考