サルコペニアとは?症状やフレイルとの違い、すぐできる予防法を解説
「サルコペニア」とは、加齢によって筋肉が極端に減ってしまう状態のことです。
高齢者の場合、「体力が落ちた」「食が細くなった」という現象は、老化ではなく、サルコペニアの可能性があります。
サルコペニアが進行すると日常の動作が難しくなり「フレイル」と呼ばれる心身衰弱状態を引き起こします。フレイルになると、要介護状態になるリスクが高くなります。
加齢とともに体の機能が衰える老化現象は、誰にでも起こり、避けられないものです。
老化を止めることはできませんが、楽しく生活するためには体の機能維持が何よりも大切になります。
この記事では「サルコペニア」と「フレイル」について詳しく解説します。
サルコペニアの基礎知識
まずは「サルコペニア」について解説します。
サルコペニアとは?
「サルコペニア」とは、筋力が落ち、全身の筋肉低下が起こる状態のことです。
サルコ(筋肉)とぺニア(減少)というギリシャ語を組み合わせた造語で、1989年ごろにアメリカで提唱された比較的新しい概念です。
人の筋肉量は40歳を境に徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速するといわれています。
そのため、サルコペニアやその予備群は65歳以上の高齢者に多く、特に75歳以上になると急増します。
サルコペニアの要因
サルコペニアの要因は、次の2つに分けられます。
原発性サルコペニア | 加齢によるもの |
---|---|
二次性サルコペニア | 活動量の低下(運動不足) 栄養不足(タンパク質の摂取量不足) 疾病によるもの |
一般的に、原発性サルコペニアのみの要因で発症することは、まれです。
多くの場合、上記2つの要因の組み合わせ、または二次性サルコペニアの複数の要因によって引き起こされます。
サルコペニアは高齢者に多い疾患ですが、二次性サルコペニアは座っていることが多かったり、過度なダイエットをしたりすると、誰でも発症する恐れがあります。
サルコペニアが引き起こす症状
サルコペニアによって筋力が低下すると、日常生活に支障が出てきます。
サルコペニアが引き起こす代表的な症状は、以下のとおりです。
- 転びやすくなる
- 頻繁につまずく
- 歩くスピードが遅くなる
- 青信号の間に横断歩道を渡りきれない
- ペットボトルのキャップが開けにくい
- 手すりにつかまらないと階段を上がれない
- 疲れやすい
- ふくらはぎや手首が細くなる
- 嚥下障害(うまく食べられない・飲み込めない)
このような症状がよく見られる人は、注意が必要です。
いずれの症状も、本人・家族ともに「歳をとった影響だろう」と軽く考えがちですが、サルコペニアの可能性があります。
サルコペニアを自分でチェックする方法
サルコペニアかもしれないと思ったら、まずは自分でチェックしてみましょう。
周囲の安全を確認し、転ばないように気をつけて、行ってください。
ふくらはぎで「指輪っかテスト」
ふくらはぎの太さで、サルコペニアの可能性があるかチェックすることができます。
親指と人差し指で輪っかをつくり、ふくらはぎの一番太い部分を囲みます。
ふくらはぎが輪っかより細いほど、サルコペニアの可能性が高くなります。
片足立ちテスト
片足立ちで、どれくらいの時間立っていられるかで、サルコペニアのリスクがわかります。
片足立ちテストのやり方
1.裸足になって立つ
2.両手を腰にあてる
3.片足を5cmほど上げて、そのままの状態を15秒以上キープする
片足立ちのキープ目標は1分です。片足立ちが1分間できれば、サルコペニアの可能性は低いといえます。
片足立ちのキープ時間が、15秒未満は注意、8秒以下だと要注意となります。
キープ時間が短いほど、サルコペニアの可能性が高くなります。
サルコペニアの簡易診断基準
サルコペニアの診断は、筋肉量・歩行速度・握力を測定して行います。
筋肉量の測定は専門の医療機関でないとできませんが、日本人の高齢者に合ったサルコペニアの簡易基準案も作成されています。
サルコペニアの簡易診断チェック
- 65歳以上である
- 横断歩道を青信号のうちに渡り切れない
- 握力が男性25kg未満、女性20kg未満
- BMI値が18.5未満
該当する項目が多いほど、サルコペニアが疑われます。
サルコペニアの危険性
サルコペニアは重症化すると、歩行困難や寝たきりを招きます。
しかし、重症化に至らなくても、心身に悪影響を及ぼします。
サルコペニアの危険性は以下のとおりです。
- 転倒や骨折のリスクが増加する
- 病気のリスクが高くなる
- 着替えや入浴などの日常生活の動作が困難になる
- 死亡率が上昇する
- フレイルになりやすい
厚生労働省が公表する「令和元年国民生活基礎調査」によると、高齢者の介護が必要となった原因として「骨折・転倒」は4位となっています。
介護が必要となった主な原因トップ5
1位:認知症
2位:脳血管疾患(脳卒中)
3位:高齢による衰弱
4位:骨折・転倒
5位:関節疾患
このことから高齢者にとって、転倒や骨折は要介護状態を招くリスクが高いことは明白です。
また、サルコペニアはフレイルを誘発する可能性も指摘されています。
フレイルについては、次章で詳しく解説していきます。
フレイルとは
「フレイル」とは、加齢によって心身が衰弱する状態のことです。
海外の医学用語「フレイルティ」が語源で、日本語に訳すと、「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などになります。
フレイルは病気ではありませんが、健康な状態と介護が必要になる状態の中間の状態を指します。
フレイルの要因
フレイルは、身体的・精神的・社会的な3つの側面が相互に影響し合って起こるといわれています。
身体的側面 | 低栄養、転倒を繰り返すこと、嚥下・摂食機能の低下など (サルコペニア・ロコモティブシンドローム) |
---|---|
精神的側面 | 認知機能の低下や意欲や判断力の低下、抑うつなど |
社会的側面 | 家に閉じこもりがちとなって他者との交流の機会が減少する |
サルコペニアは、フレイルの身体的側面の1つです。
ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)とは、運動器(骨や関節、筋肉)に支障をきたして、立ったり歩いたりする移動能力が低下した状態を指します。
サルコペニアとロコモの違いは、下記の比較表でご確認ください。
サルコペニア | ロコモ | |
---|---|---|
意味 | 全身の筋肉量低下 | 運動器(骨や関節、筋肉)の障害 |
原因 |
|
|
サルコペニア・フレイルの違い
サルコペニアは筋肉量の低下による「身体機能の問題」によるものですが、フレイルは身体的のほかに、「精神的・心理的・社会的な問題」を含みます。
サルコペニア・フレイルの違い
サルコペニア | フレイル | |
---|---|---|
意味 | 全身の筋肉量低下 | 虚弱・老衰 |
特徴 | 身体的な問題のみ | 精神的・心理的・社会的な問題 |
サルコペニア・フレイルの予防法
サルコペニアとフレイルの予防は、特別難しいことはありません。
ここでは、サルコペニアやフレイルにならないための予防法をお伝えします。
しっかりと栄養を摂取する
栄養摂取は、特に筋肉のもととなるたんぱく質の摂取が大切です。
たんぱく質が多く含まれる食材は、肉や魚、大豆、卵などです。必要なたんぱく質の量も目安は「手のひら1枚分」といわれています。
高齢になると、肉や魚などたんぱく質をはじめ、食事全体の量が減り低栄養状態になる方も少なくありません。たんぱく質はもちろん、野菜やごはんなどもきちんとバランスよく食べるようにしましょう。
運動をする
体の機能を維持するには、運動はとても重要です。
「歩かないと歩けなくなる」とはよく言われますが、普段から動いていないと、体の運動機能はどんどん衰えていきます。
そのため、次の3つを心がけて生活しましょう。
- できるだけ歩く
- なるべく階段を使う
- 筋力トレーニングを行う ※実践前にかかりつけ医にご相談ください
できるだけ歩くことに慣れたら、ウォーキングの実践がおすすめです。
歩く速さを早める、ウォーキングコースに坂を加えるなど少しの工夫で、筋肉量のアップにつながります。
また、筋力トレーニングは無理のない範囲で取り入れるといいでしょう。
筋肉トレーニングの方法はスクワットやつま先立ちなどいくつかありますが、人によってはマイナスになることもあります。
そのため、筋肉トレーニングはかかりつけ医に相談の上で、実践してください。
生活習慣を見直す
以下の生活習慣に、当てはまるものがある人は注意が必要です。
注意が必要な生活習慣
- 睡眠不足
- 閉じこもり
- 不規則な食生活
- 強いストレス
- 喫煙
- 過度の飲酒
これらの生活習慣は、身体活動性の低下や低栄養、生活習慣病などの慢性疾患を引き起こし、サルコペニアやフレイルの要因をもたらします。
当てはまるものがあれば、少しずつ改善していきましょう。
取り入れたい生活習慣
- 毎日の生活のリズムを整える
- 散歩や体操などの運動を習慣づける
- 仕事や趣味を持つ
- 地域活動やボランティアなどに参加する
心身の健康を維持するためには、他者とのコミュニケーションや社会とのつながりも大切です。
まとめ
いつまでも自分らしく生き生きと暮らすためには、健康寿命を伸ばすことが必要です。
サルコペニアやフレイルは、早めに気づき予防・対処すると、状態が改善したり、進行を緩やかにしたりすることができます。
「もう年だから仕方がない」と諦めないで、生活習慣を見直すことから始めましょう。
サルコペニアやフレイルかもしれないと思ったら、かかりつけ医に相談してみると安心です。