高齢者の足のむくみを解消する方法。原因・予防・受診すべきケースを解説
足が重だるい、靴がきつく感じる、すねを押すと跡が残る。そんな足のむくみでお悩みではありませんか。
高齢者の多くが経験する足のむくみは、生活習慣の工夫や簡単な運動で改善できることが少なくありません。この記事では、むくみが起こるメカニズムや原因、自宅で今日から実践できる解消法をわかりやすくご紹介します。ご自身やご家族の快適な毎日のために、ぜひ参考にしてください。
高齢者の足のむくみとは?症状と確認方法
むくみ(浮腫)とは何か
むくみは医学用語で「浮腫(ふしゅ)」と呼ばれます。浮腫とは、皮膚の下の組織(皮下組織)に余分な水分がたまった状態のことです。
国立長寿医療研究センターによると、私たちの体の約60%は水分でできており、その水分は細胞の中と外にバランスよく分布しています。しかし、何らかの理由でこのバランスが崩れると、細胞の外側にある組織の隙間に水分がたまり、むくみとして現れます。
医療分野では、体内の水分が過剰に貯留することで体重が通常より数%(およそ5〜10%)増えると、見た目にわかるむくみが生じやすくなると考えられています(例:日本透析医学会『維持血液透析ガイドライン:血液透析処方(2014年版)』などより)。
自宅でできる簡単なむくみチェック方法
足がむくんでいるかどうかは、簡単な方法で確認できます。
むくみの確認方法
- すねの骨の上を指で5秒ほど押す
- 指を離したときに、へこみ(圧痕)が残るかどうかを見る
- へこみが残る場合は「圧痕性浮腫」の可能性がある
むくみには大きく分けて「圧痕性浮腫」と「非圧痕性浮腫」の2種類があります。圧痕性浮腫は指で押すと跡が残るタイプで、心臓や腎臓の病気、静脈の血流障害などが原因となることがあります。一方、非圧痕性浮腫は跡が残らないタイプで、リンパ液の流れが悪くなることなどが原因です。
あくまで簡単な「自己チェック」です。押しても跡が残らない場合もあります。気になる症状がある場合は、かかりつけ医に相談しましょう。
高齢者が足のむくみを起こしやすい原因
生活習慣がむくみを引き起こす理由
日々の生活習慣は、足のむくみに大きく影響します。
むくみを引き起こす生活習慣
- 長時間同じ姿勢でいること(座りっぱなし、立ちっぱなし)
- 運動不足による筋肉の衰え
- 塩分の多い食事
- 水分の過剰摂取または不足
健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)によると、長時間座ったままや立ったままの姿勢が続くと、重力の影響で血液やリンパ液が足にたまりやすくなります。特に高齢になると筋肉量が減少するため、血液を心臓に戻すポンプ機能が弱まり、むくみが起こりやすくなります。
また、塩分を多く摂取すると、体内の塩分濃度を調整するために体が水分を蓄えようとし、むくみの原因になります。
加齢による体の変化とむくみの関係
年齢を重ねることで起こる体の変化も、むくみの大きな要因です。
加齢に伴う変化
- 筋肉量の減少(特にふくらはぎの筋肉)
- 心臓のポンプ機能の低下
- 血管の弾力性の低下
- 腎機能の低下
高齢者に多い慢性下肢浮腫(足のむくみ)は、加齢に伴う筋肉量の減少が大きな原因のひとつです。ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」と呼ばれ、血液を心臓に送り返すポンプの役割をしています。この筋肉が衰えると、血液が足に滞りやすくなり、むくみが生じやすくなります。
また、国立長寿医療研究センターによると、心臓の機能が低下すると全身に血液を送る力が弱まり、足に血液がたまってむくみが起こります。心不全の症状として足のむくみが現れることもあるため、注意が必要です。
意外と知られていないむくみの原因
生活習慣や加齢以外にも、むくみの原因はいくつかあります。
その他の原因
- 薬の副作用(血圧を下げる薬、痛み止めなど)
- タンパク質の不足
- 肝臓や腎臓の病気
- 静脈瘤(じょうみゃくりゅう)などの血管の病気
食事でタンパク質が不足すると、血液中のタンパク質濃度が下がり、血管から水分が漏れ出してむくみの原因となります。高齢者は食事量が減りがちなので、十分なタンパク質摂取を心がけることが大切です。
また、一部の薬にはむくみを引き起こす副作用があります。薬を飲み始めてからむくみが気になるようになった場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。
高齢者も自宅でできる足のむくみ解消法
今日から始められる簡単な運動
運動は足のむくみ解消に最も効果的な方法のひとつです。
おすすめの運動
- ウォーキング(1日20〜30分程度)
- 足首をゆっくり回す運動(左右10回ずつ)
- つま先立ち運動(10〜15回を1日数セット)
- 座ったままできる足の上げ下げ運動
厚生労働省の「標準的な運動プログラム」では、日常生活の中で無理なく続けられる運動が推奨されています。ウォーキングは全身の血流を促進し、ふくらはぎの筋肉を効果的に使うことができます。
足首を回す運動は、座ったままでもできる簡単な方法です。足首をゆっくり大きく回すことで、足先の血流が改善され、むくみの予防や解消につながります。朝起きたときや、テレビを見ながらでも実践できます。
つま先立ち運動は、ふくらはぎの筋肉を鍛えるのに効果的です。椅子や壁に手を添えて、安全に配慮しながら行いましょう。
ウォーキングを安全に行う方法については、こちらの記事もご参照ください。
高齢者が安全にウォーキングを行う方法|期待できる効果と注意点
気持ちいいマッサージとストレッチ
マッサージやストレッチも、むくみの解消に役立ちます。
効果的なマッサージ方法
- 足先から心臓に向かって優しくさする
- ふくらはぎを下から上に向かって軽く押し上げる
- 足の裏を親指で押す
- 強すぎない力加減で行う
マッサージは、たまった水分やリンパ液を心臓に戻すサポートをします。お風呂上がりの体が温まっているときに行うと、より効果的です。
ただし、痛みがある場合や皮膚に異常がある場合は、マッサージを控えてください。また、強く押しすぎると皮膚や血管を傷める可能性があるため、やさしく丁寧に行うことが大切です。
毎日の生活でできるむくみ対策
日常生活のちょっとした工夫で、むくみを予防・改善できます。
生活の工夫
- 寝るとき足を少し高くする(クッションや枕を使う)
- 足湯で血行を促進する(38〜40度のお湯に10〜15分)
- 適度な入浴で全身の血流を改善する
- 椅子に座るとき足を組まない
- 同じ姿勢を長時間続けない
就寝時に足を心臓より少し高い位置に置くことで、重力の影響を受けずに血液が心臓に戻りやすくなります。クッションや折りたたんだ毛布を足の下に置く方法なら、簡単です
足湯も手軽にできるむくみケアです。温かいお湯に足を浸けることで血管が広がり、血液循環が良くなります。リラックス効果もあるので、就寝前の習慣にするのもおすすめです
椅子に座るときは、足を組まず、足裏全体が床につくようにしましょう。足を下げっぱなしにせず、時々足踏みをしたり、かかとを上げ下げしたりすると効果的です。
食事で内側からむくみケア
食事の内容を見直すことも、むくみ対策には重要です。
食事のポイント
- 塩分を控えめにする(1日6グラム未満が目標)
- カリウムを含む食品を取り入れる(バナナ、ほうれん草、さつまいもなど)
- タンパク質をしっかり摂る(肉、魚、卵、大豆製品)
- 水分は適度に摂取する(飲みすぎも飲まなさすぎも避ける)
健康長寿ネットによると、塩分を摂りすぎると体内に水分がたまりやすくなります。醤油や味噌の使用量を減らしたり、減塩タイプの調味料を選んだりすることで、無理なく塩分を減らせます。
カリウムは、体内の余分な塩分を排出する働きがあります。ただし、腎臓に病気がある方はカリウム制限が必要な場合があるため、医師に相談してください。
タンパク質は血液中の水分バランスを保つために必要です。毎食、手のひら1枚分程度のタンパク質食品を取り入れることを心がけましょう。
水分については、飲みすぎも不足も良くありません。喉が渇いたと感じたら適度に水分補給をし、特に夏場は意識的に水分を摂るようにしましょう。
足のむくみで医療機関を受診すべきケースとは
こんな症状があったらすぐに受診を
むくみの中には、重大な病気のサインである場合があります。以下の症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
緊急性が高い症状
- 急激に足がむくんできた
- 息切れや呼吸困難を伴う
- 胸が痛い、胸が苦しい
- 意識がもうろうとする
息切れや呼吸困難を伴う足のむくみは、心不全の可能性があります。心臓のポンプ機能が低下すると、全身に血液を送る力が弱まり、血液が足にたまってむくみが生じます。同時に肺にも水分がたまると、息切れや呼吸困難が起こるのです。
これらの症状は命に関わる可能性があるため、迷わず救急車を呼ぶか、すぐに医療機関を受診しましょう。
症状によっては、救急車を呼ぶべきか、ご家族が迷うこともあるかもしれません。救急安心センターなどを活用しましょう。
※上記は地域によっては実施していませんが、似たような相談センターは各地にあります。事前に調べておくと安心です。
早めの受診が必要なサイン
緊急ではなくても、以下のような場合は早めに医療機関を受診することをおすすめします。
早めに受診すべきケース
- 片足だけがむくむ
- むくみが2週間以上続いている
- むくみが日に日に悪化している
- むくみと一緒に体重が急激に増えた
- 夕方だけでなく朝起きたときもむくんでいる
国立長寿医療研究センターによると、片足だけがむくむ場合は、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)などの可能性があります。
また、むくみが長期間続く場合や徐々に悪化する場合は、心臓、腎臓、肝臓などの病気が隠れている可能性があります。自己判断せず、医師の診察を受けることが大切です。
「足のむくみ」はどの診療科を受診すればいい?
むくみで医療機関を受診する際、どの診療科に行けばよいか迷うこともあるでしょう。
受診する診療科
- まずはかかりつけ医に相談
- かかりつけ医がいない場合は内科
- 息切れや動悸がある場合は循環器内科
- 必要に応じて専門科を紹介してもらう
かかりつけ医がいる場合は、まずそちらに相談するのが良いでしょう。これまでの病歴や服用している薬なども把握しているため、適切な診断や治療、必要に応じて専門医への紹介を受けられます。
かかりつけ医がいない場合は、内科を受診しましょう。むくみの原因を調べるために、血液検査や尿検査、心電図、超音波検査などを行い、必要に応じて循環器内科や腎臓内科などの専門科を紹介してもらえます。
まとめ
高齢者の足のむくみは、多くの場合、生活習慣の見直しや簡単な運動、マッサージなどで改善が期待できます。ウォーキングや足首の運動、適度な食事管理を日常生活に取り入れることで、むくみの予防や解消につながります。
ただし、むくみの中には心不全や腎臓病などの重大な病気が隠れている場合もあります。急激なむくみ、息切れを伴うむくみ、長期間続くむくみなどがある場合は、必ず医療機関を受診してください。
早期発見・早期対処によって重症化を防ぎ、いつまでも自立した生活とQOL(生活の質)の維持・向上をめざしましょう。快適な毎日は小さな一歩から、ですね。