ノーリフティングケアとは?事例でわかる抱えない介護の効果と福祉用具
ノーリフティングケアとは、介護現場において人の力で持ち上げる介助を行わず、福祉用具や環境整備を活用して介護される方と介助者の負担やリスクを減らすケアのことです。介護の現場では、ベッドから車いすへの移動や、身体の向きを変えるといった日々の介助が積み重なり、介護するスタッフの身体にも、介護を受ける方の身体にも、少なからず負担がかかっています。そうした問題を解決するアプローチとして、注目されているのが「ノーリフティングケア」です。
この記事では、ノーリフティングケアとはどのようなものか、どのような福祉用具が使われているのか、そして実際の施設でどのように取り入れられているのかを、わかりやすくお伝えします。
ノーリフティングケアとは?抱えない介護が注目される理由
ノーリフティングケアとは、「人の力だけで利用者を持ち上げない・抱え上げない」ことを基本とする介護の考え方です。
従来の介護では、ベッドから車いすへ移る際などに、スタッフが利用者の身体を直接抱き上げることが少なくありませんでした。しかし、力任せの介助は利用者にとっても「怖い」「痛い」と感じる場面が多く、身体への影響も懸念されています。
ノーリフティングケアでは、スライディングシートやリフトなどの福祉用具を使うことで、こうした負担を大きく減らすことができます。
ノーリフティングケアの3つの基本原則
ノーリフティングケアは、次の3つを基本的な考え方としています。
- 持ち上げない
- 抱えあげない
- ベッド上で引きずらない
身体を力で持ち上げる動作や、シーツや身体を無理に引っ張る動作を避けるのが、ノーリフティングケアの原則です。この3つを実現するために、適切な福祉用具を選び、対象となる方の状態に合った介助方法を選択することが重要です。
介護福祉士の試験でも問われるノーリフティングケアの基礎知識
ノーリフティングケアは、介護福祉士の国家試験でも取り上げられるテーマのひとつです。介護の基礎知識として、現場で働くスタッフが共通して理解しておくべき考え方として位置づけられています。
施設に入居を検討されているご家族の方にとっても、「この施設はどのような介護をしているのか」を知るうえで、ノーリフティングケアへの取り組みは、ひとつの重要なポイントになります。
なぜ今、ノーリフティングケアが必要なのか?介護現場の課題
ノーリフティングケアが注目される背景には、介護現場が抱える深刻な課題があります。
介護職の腰痛は、労働災害の中でも特に多い
介護の仕事では、人の身体を支えたり持ち上げたりする動作が毎日繰り返されます。その積み重ねが、腰への大きな負担となっています。
厚生労働省の第14次労働災害防止計画(令和5〜10年度)では、社会福祉・介護施設などの第三次産業における腰痛対策が重点課題のひとつに挙げられており、腰痛は介護職における労働災害の中でも件数が多いとして継続的に対策が求められています。
腰痛が離職の一因になっている
腰を痛めてしまうと、思うように介助ができなくなり、仕事を続けることが難しくなります。腰痛は介護職の離職理由のひとつにもなっており、慢性的な人手不足につながる要因としても課題視されています。
厚生労働省が第三次産業(飲食・宿泊・社会福祉など)を対象に実施した腰痛予防対策推進事業の支援事例では、リフトやスライディングボードを活用することで、現場スタッフの腰への負担が実際に軽減されたケースが複数報告されています。
利用者にも身体への負担がある
力任せの介助は、介護する側だけでなく、介護を受ける側にとっても負担です。特に、骨の弱くなった高齢の方の場合、無理な抱え上げによって骨折などのリスクが生じることもあります。
また、「いきなり持ち上げられる」「身体をつかまれる」という体験は、恐怖や痛みをともなうこともあります。利用者が介助に不安を感じると、身体に力が入って余計に介助しにくくなるという悪循環にもつながります。
ノーリフティングケアは、こうした課題に対して、介護者と利用者の双方の負担を減らすための、現実的な解決策として広がってきています。
ノーリフティングケアで使う主な福祉用具とその役割
ノーリフティングケアを実践するには、目的に合った福祉用具を上手に活用することが大切です。代表的な用具とその役割を紹介します。
| 福祉用具 | 特徴・使い方 |
|---|---|
| スライディングシート | つるつるとした素材でできたシートで、ベッド上で身体を滑らせながら移動するときに使います。摩擦を大きく減らすことができるため、体位変換や上方移動などの介助がスムーズになります。 |
| スライディングボード(移乗ボード) | 車いすとベッドの間などに橋のように渡して使うボード。座ったまま身体を横にスライドして移れるため、持ち上げる動作なしに移乗できます。 |
| リフト(移乗用リフト) | スリング(布製のハーネス)を身体に装着し、電動で身体を持ち上げる機器。ベッドから車いす、浴槽などへの移乗を、ほぼスタッフの力なく行うことができます。天井に設置するタイプや、床走行式のタイプがあります。 |
| スタンディングリフト(立位補助型リフト) | ある程度自力で立ち上がる力がある方の移乗をサポートする機器。全身を吊り上げるリフトとは異なり、立ち上がり動作を補助することで、残っている身体機能を活かすことができます。 |
福祉用具はどれかひとつを選べばいいというものではありません。介護される方の身体状況や介助の場面(ベッドからの移乗、体位変換、入浴など)に応じて、最適な用具を組み合わせることが大切です。
ノーリフティングケアに使う福祉用具の選び方
適切な福祉用具を選ぶためには、以下のような視点が参考になります。
- 利用者の身体の状態(筋力・可動域・体重など)
- 介助の目的(移乗・体位変換・入浴など)
- 介助する環境(部屋の広さ・設備など)
- 利用者本人の希望や感覚(怖くないか、痛くないかなど)
「この道具を使えばいい」という正解は一律には決められません。介護される方一人ひとりの状態を見ながら、専門的な知識を持つスタッフが適切に見極めて判断することが、安全で効果的なノーリフティングケアにつながります。
実際の施設ではどう変わった?ノーリフティングケアの活用事例
ここでは、ALSOKジョイライフが運営する介護付有料老人ホーム「ローズライフ京都」でのノーリフティングケアの取り組みをご紹介します。
ローズライフ京都(京都市中京区)は、2014年(平成26年)にオープンした介護付有料老人ホームです。京都市立病院に隣接するという立地を活かし、24時間365日の看護師配置のもと、手厚い医療・介護体制を整えています。
同ホームでは、入居されている方の身体の状態に合わせた介助方法の選択と、福祉用具の効果的な活用によって、ノーリフティングケアを実践しています。
「痛い」「怖い」を減らすための介助へ
ベッドから車いすへ移るとき、力任せに抱き上げられると、利用者の方は「痛い」「怖い」と感じることがあります。そうした体験が繰り返されると、介助そのものへの不安が高まり、身体に余計な緊張が生まれることもあります。
ローズライフ京都では、リハビリの専門スタッフが常駐しており、福祉用具をコーディネートする役割も担っています。それぞれの方の身体機能を丁寧に評価したうえで、スライディングシートや移乗ボード、リフトなどを組み合わせ、身体に負担の少ない介助方法を選択しています。
スタッフの負担軽減と、介護の質の向上
ノーリフティングケアの導入は、スタッフの身体を守ることにもつながります。腰への負担が減ることで、無理をして痛める場面が少なくなり、安心して介助に臨めるようになります。
また、利用者・スタッフの双方が「安心できる介助」を積み重ねることで、介助の時間がより穏やかになり、信頼関係の構築にもつながっています。
ノーリフティングケアが利用者の身体機能の維持・向上を支える
ノーリフティングケアのもうひとつの大切な側面が、利用者の「できること」を守ることです。
力任せの介助では、利用者が受け身になりがちです。一方、スタンディングリフトや立位を意識した介助方法では、利用者ご自身の筋力を使う機会を作ることができます。
ローズライフ京都では、適切な介助方法の選択が身体機能の維持や向上にもつながるという考えのもと、リハビリと日常の介助を連携させたケアを実践しています。「その人らしく暮らす」を支えるためには、介助の質が日常生活全体に影響するからです。
国の支援事例にも見られる現場の変化
厚生労働省の腰痛予防対策推進事業の支援事例では、スライディングシートやリフトを導入した介護施設での変化が複数報告されています。
- スタッフが移乗時の負担軽減を実感
- 利用者の側でも、苦痛なく移乗できたという反応が得られた
- 道具の使い方を学ぶ施設内研修の継続が促進された
こうした事例からも、ノーリフティングケアは一部の施設だけの取り組みではなく、介護現場全体に広がりつつある実践的なアプローチであることがわかります。
ノーリフティングケアは「安全で続けられる介護」への第一歩
ノーリフティングケアは、介護するスタッフと介護を受ける方の、双方を大切にする考え方です。
腰痛による離職、利用者の「怖い・痛い」といった体験、介護現場の課題に対して、福祉用具を活用することは、現実的で有効な解決策のひとつです。
重要なのは、特定の用具を導入すれば終わりではなく、利用者一人ひとりの状態を継続的に確認しながら、その情報をスタッフ同士で共有し、研修を重ねていくことです。
福祉用具に興味を持たれた方は、まず「どのような種類があるのか」を知るところから始めてみてください。スライディングシートひとつを試してみるだけでも、日々の介助が変わることがあります。「安全で、続けられる介護」のために、できるところから一歩を踏み出してみましょう。
ローズライフ京都では、入居に関するご相談や施設見学のご案内を随時受け付けています。ノーリフティングケアをはじめとする介護・医療体制について、実際にご覧いただくことも可能です。ご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。