ポリファーマシーとは?薬は何種類から注意?高齢者のリスクと今日からできる対策
高齢になって処方される薬が増えてきたときに、知っておきたい言葉が「ポリファーマシー」です。ポリファーマシーとは、薬の種類が多いことをきっかけに、副作用や飲み忘れ、飲み間違いなどの問題が起こりやすくなっている状態をいいます。
厚生労働省は2018年に「高齢者の医薬品適正使用の指針」を策定し、医療現場でのポリファーマシー対策を進めてきました。さらに2026年7月には、ポリファーマシー対策の考え方をより広く伝えるための資料を新たに作成し、全国の都道府県などへ通知しています。
国が改めて普及啓発に力を入れ始めた今は、高齢者が薬とどう付き合うべきかを基本から見直すよい機会です。本記事では、ポリファーマシーの意味から、高齢者に起こりやすい理由、体と生活への影響、家族や本人が今日からできる対策までをわかりやすく解説します。
ポリファーマシーとは?薬の「数」だけの問題ではありません
ポリファーマシーは、薬の数が多いこと自体を指す言葉ではありません。薬が多いことによって体に好ましくない症状が出たり、飲み忘れや飲み間違いが起きやすくなったりしている状態を指します。
ポリファーマシーの意味と厚生労働省の定義
ポリファーマシー(polypharmacy)は、「poly(多くの)」と「pharmacy(薬)」を組み合わせた言葉です。厚生労働省の指針では、複数の薬を飲んでいる状態(多剤服用)のうち、害をもたらしているものを特にポリファーマシーと呼んで区別しています。
つまり、薬が多いことによって、好ましくない症状(副作用など)が出やすくなったり、飲む量や時間を間違えやすくなったり、指示どおりに飲み続けにくくなったりしている状態のことです。
| 多剤服用 | ポリファーマシー | |
|---|---|---|
| 意味 | 複数の薬を飲んでいる状態 | 多剤服用のうち、体や生活に問題が生じている状態 |
| 考え方 | 必要な薬であれば適切な治療 | 医師・薬剤師と処方の見直しを検討 |
「薬が6種類以上」はポリファーマシーの目安のひとつ
指針では、日本老年医学会のガイドラインをもとに、飲んでいる薬が6種類以上になると薬物有害事象(薬を使ったあとに現れる好ましくない症状)の発生頻度が高まるというデータが紹介されています。「6種類以上」がひとつの目安として語られるのは、上記のデータがあるためです。
ただし、ポリファーマシーに厳密な薬の数の定義はありません。6種類以上の薬を飲んでいても、どれも必要で体に問題が出ていなければ適切な治療といえます。反対に、2〜3種類でも副作用が出ていたり、正しく飲めていなかったりする場合は見直しが必要なこともあります。数だけで判断せず、「今の体と生活に合った薬になっているか」という視点で考えることが大切です。
高齢者にポリファーマシーが起こりやすい3つの理由
高齢者にポリファーマシーが起こりやすい主な理由は、複数の医療機関にかかりやすいこと、副作用を抑えるための薬が重なりやすいこと、飲んでいる薬全体を把握しにくいことの3つです。
厚生労働省の指針で紹介されている2016年の統計では、75歳以上の約4人に1人が、ひとつの薬局から1か月に7種類以上の薬を受け取っていました。また、年齢を重ねると肝臓や腎臓の働きがゆるやかになり、薬が体の中に残りやすくなります。若い頃と同じ薬でも影響が出やすくなる点も、高齢者ならではの特徴です。
複数の病院やクリニックにかかっている
高血圧は内科、膝の痛みは整形外科、目の病気は眼科というように、持病ごとに別の医療機関へ通うこともよくあります。医療機関ごとに処方を受けると、薬が全体で何種類になっているのか、似た働きの薬が重なっていないかを、ひとりの医師が把握しにくくなります。
副作用を新しい薬で抑えようとして、さらに薬が増える
薬の副作用で現れた症状が新しい病気の症状と受け止められ、別の薬が追加されて、薬が連鎖的に増えていくことがあります。
専門的には「処方カスケード」と呼ばれ、指針でもポリファーマシーが生まれる典型的な流れとして紹介されています。カスケード(cascade)は「連なった小さな滝」という意味です。たとえば、ある薬の影響で便秘が起き、便秘を治すための薬が加わるといったケースが当てはまります。
お薬手帳がばらばらで、飲んでいる薬をまとめて把握できていない
薬局ごとに別のお薬手帳を使っていたり、受診時に手帳を持参しなかったりすると、医師や薬剤師がすべての薬を確認しにくくなります。
現在はマイナ保険証で受付をし、本人が同意すれば、医療機関や薬局で過去の薬の履歴を確認できる仕組みが整ってきました。電子処方箋(紙ではなく電子データでやりとりする処方箋)に対応した医療機関・薬局どうしであれば、重複投薬や飲み合わせのチェックも行われます。
ただし、同意をしなかった場合や、電子処方箋に対応していない医療機関・薬局を利用する場合は、情報が十分に共有されないこともあります。
市販薬やサプリメントは本人や家族が伝えなければ把握されにくいため、お薬手帳とあわせて活用することが大切です。指針でも、処方の状況がひとつにまとめて管理されていないと、ポリファーマシーが起こりやすいと示されています。
ポリファーマシーで起こりやすい体と生活への影響
ポリファーマシーで起こりやすいのは、ふらつきや物忘れ、食欲不振、便秘などの体の不調と、飲み忘れや飲み間違いといった薬の管理面のトラブルです。必ず起こるわけではありませんが、起こりやすい変化を知っておくと、早めに気づくきっかけになります。
ふらつき・物忘れ・食欲不振など体に現れやすい変化
指針では、高齢者によく見られる症状(老年症候群:加齢に伴って現れやすい心身の症状の総称)が現れたときに、薬が原因になっている可能性も考えるよう示されています。代表的な症状と、日常生活で気づきやすい変化の例は次のとおりです。
| 症状 | 日常生活で気づきやすい変化の例 |
|---|---|
| ふらつき・転倒 | 立ち上がるときにふらつく、つまずきやすくなった |
| 物忘れ・頭がぼんやりする | 会話がかみ合わない、日中ぼんやりしている時間が増えた |
| 気分の落ち込み | 好きだったことへの関心が薄れた |
| 食欲不振 | 食事を残すことが増えた、体重が減ってきた |
| 便秘 | 便が出にくい日が続く |
| 尿のトラブル | 尿が出にくい、トイレが近い、尿もれがある |
ふらつきは転倒につながり、骨折の原因になることもあります。年齢のせいと思い込みやすい変化だからこそ、薬が増えた時期や変わった時期と重なっていないかを振り返ってみることが大切です。
転倒や体力の衰えが気になる方はこちらもあわせてご覧ください。
薬の管理が難しくなり、飲み忘れや飲み間違いにつながる
薬の種類が増えると、「朝食後」「寝る前」「食前」など飲むタイミングも複雑になります。視力の低下や物忘れ、ひとり暮らしといった状況が重なると、飲み忘れや、同じ薬を二重に飲んでしまうといった間違いが起こりやすくなります。
気になる変化があっても、すぐに薬のせいと決めつける必要はありません。「もしかすると薬が関係しているかもしれない」と気づいた時点で、医師や薬剤師に相談できることが何より大切です。
ポリファーマシーを防ぐために家族や本人が今日からできる対策
ポリファーマシーを防ぐ基本は、飲んでいる薬の情報をひとつにまとめて医師や薬剤師と共有し、定期的に処方を見直してもらうことです。そして、気になることがあっても自己判断で薬をやめず、必ず相談することが大切です。
かかりつけの薬局をひとつにまとめる
複数の医療機関の処方箋を同じ薬局に持っていくと、薬剤師が薬の重なりや飲み合わせを確認しやすくなります。指針でも、薬局による調剤と薬の情報の一元管理が、ポリファーマシーの解消につながるとされています。普段から相談しやすい薬剤師を決めておくのもおすすめです。
お薬手帳はひとつにまとめ、受診時に必ず見せる
お薬手帳が複数冊ある場合は1冊にまとめ、病院やクリニック、歯科、薬局で毎回見せるようにしましょう。電子版のお薬手帳を使う場合も、ひとつのアプリにまとめておくと情報が分散しません。マイナ保険証で受付をする際は、薬の情報の提供に同意しておくと、医師や薬剤師がほかの医療機関で処方された薬も確認しやすくなります。
市販薬やサプリメントも医師・薬剤師に伝える
指針では、一般用医薬品(薬局やドラッグストアで購入できる市販薬)や健康食品の使用状況についても、本人や家族、介護職員が把握し、確認するよう促しています。風邪薬や痛み止め、便秘薬、サプリメントなども、処方薬との飲み合わせに影響することがあります。購入した市販薬は、お薬手帳に記録するか、薬の名前をメモして診察券などと一緒に保管しておくと、受診時に伝え忘れずに済みます。
薬を飲んだ後の変化や気になることは早めに伝える
新しい薬を飲み始めた後や薬が変わった後に、ふらつきや眠気、食欲の低下などが現れたら、次の受診を待たずに医師や薬剤師に相談しましょう。家族が気づいた変化を次のようにメモしておくと、伝え漏れを防げます。
- いつから
- どんな変化か
- 新しく始めた薬・変わった薬
「今の薬は本当に必要か」を定期的に相談する
指針では、医師が処方を見直す際に、効果が出ているか、量を減らしたりやめたりできるか、代わりの薬はないかなどを確認する流れが示されています。食事や運動、睡眠など、薬以外の方法が役立つ場合があることも記されています。「薬が多くて飲むのが大変」「飲みにくい薬がある」といった本音も、遠慮せずに伝えてください。
自己判断で薬をやめたり減らしたりしない
薬が多いと感じても、本人や家族の判断だけで薬をやめたり、量を減らしたりするのは避けましょう。薬の中には、急にやめると離脱症状(薬を急に中断したときに起こる体調の変化)が出るものがあります。中断によって持病が悪化するおそれもあります。薬を減らす・やめるといった見直しは、必ず医師や薬剤師と相談しながら進めましょう。
一包化や服薬カレンダーで飲み忘れを防ぐ
一包化とは、1回に飲む複数の薬を1袋にまとめて調剤する方法です。袋に日付や飲むタイミングを印字してもらえる場合もあり、取り出す手間や飲み間違いを減らせます。服薬カレンダー(曜日や時間帯ごとに薬を入れておけるポケット付きのカレンダー)や服薬ケースを使えば、飲んだかどうかがひと目でわかります。一包化を希望する場合は、医師や薬剤師に相談してみてください。
ポリファーマシーは正しく知り、医療者と一緒に見直すことが大切
ポリファーマシーは、薬の数が多いかどうかではなく、体に悪い影響が出ていないか、正しく飲めているかという視点で考えることが大切です。家族と医師・薬剤師が連携しながら定期的に処方を見直していくことが、ポリファーマシーの解消につながります。
薬は正しく使えば怖いものではなく、安心して治療を受けるための心強い味方です。国が2026年7月に新たな資料を作成したことからも、ポリファーマシー対策の重要性がうかがえます。まずは、飲んでいる薬を家族と一緒に確認するところから始めてみましょう。ポリファーマシーについて正しく知っておくことが、安心につながる第一歩です。